炭疽 (Anthrax)

感染症法:四類感染症  家伝法:家畜伝染病

概要

炭疽菌の芽胞が生体内に侵入すると発芽し栄養型となり複数の毒素を産生する.それによって出血,浮腫および壊死などを引き起こす.

疫学

炭疽菌の芽胞は地球上に広く存在し,未だに世界の多くの地域で炭疽の発生がみられる.患者数および動物の炭疽の発生は発展途上国や獣医衛生の立ち後れている国に多い.芽胞は土壌で長期間生存が可能であり,汚染された土壌からの除染は難しい.

感染経路

主な感染経路は流行地における感染動物との接触.芽胞に汚染した土壌等との接触.人-人感染はきわめて稀である.

保菌動物

牛,水牛,鹿,馬,めん羊,山羊,豚,いのしし,など.草食動物は感受性が高い.

病原体

炭疽菌はグラム陽性の芽胞形成大桿菌である.感染動物の血中で莢膜を発現する.鞭毛は有さない.

動物における本病の特徴

症状

家畜では,超急性/卒中性感染(牛,水牛,めん羊,山羊など),急性感染(鹿,馬など),および亜急性/慢性感染(豚,いのししなど)の病型が知られている.症状は眼結膜の充血,可視粘膜の浮腫,呼吸困難,天然孔(鼻,肛門等)からタール様の血液の排泄等で,急性敗血症や尿毒症による腎障害を呈して死亡する.死後硬直は不全である.

潜伏期

3日から1週間.

診断と治療

死体,血液からの菌の分離.PCR法による炭疽菌特異的遺伝子(毒素遺伝子,莢膜遺伝子)の検出.家畜では摘発淘汰.

予防

牛,馬用に弱毒生ワクチンが市販されている.

法律

家畜伝染病予防法の監視伝染病(家畜伝染病)に指定されている.対象動物は牛,水牛,鹿,馬,めん羊,山羊,豚,いのしし.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所へ届出る

感染症法では四類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.

人における本病の特徴

人は,牛や馬などの草食獣に比べて比較的抵抗性が強いといわれている.人の病型は伝播様式によって皮膚炭疽(経皮感染),腸炭疽(経口感染)及び肺炭疽(吸入感染)の主に三つに分けられる.

症状

皮膚炭疽:炭疽の自然感染の 95%以上が皮膚炭疽である.炭疽菌芽胞は創傷部から体内に取り込まれる.炭疽菌や芽胞を含んだ動物又はその成分と接触した後 1~10 日して小さな掻痒性,無痛の丘疹が出現し,周囲に発疹と浮腫が出現する.局所リンパ節の腫脹が著しい.

腸炭疽(出血性腸炎):感染獣の肉を摂食して発症する.症状は悪心,嘔吐,食欲低下,発熱で始まる. 2〜3日後激しい腹痛と血液を含んだ下痢がある.この激しい症状のあと,毒血症,ショック,死亡に至ることがある.

肺炭疽:発生はきわめてまれである.初期にはインフルエンザ様症状またはウイルス性呼吸器症状(軽度の発熱,消沈,筋肉痛など)を示し,発熱,呼吸困難,咳,頭痛,嘔吐,悪寒,脱力,腹部と胸部の疼痛が見られる.

診断と治療

血液,病変などからの菌の分離.PCR法による炭疽菌特異的遺伝子(毒素遺伝子,莢膜遺伝子)の検出.治療には,シプロフロキサシン,ドキシサイクリンの併用.

予防

ワクチンはない.感染動物,その死体の取り扱いに注意する.

法律

感染症法の四類感染症に定められている.

診断した医師は7日以内に最寄りの保健所への届出が義務付けられている.病原体の取り扱いは二種病原体.

(2024年3月作成)

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