破傷風 (Tetanus)

感染症法:五類感染症    家伝法:届出伝染病

概要

破傷風は,土壌などの環境に生息している破傷風菌 (Clostridium tetani) が創傷部位から宿主体内に侵入し,細菌が増殖する過程で産生する神経毒素 (テタノスパスミン) によって発症する感染症である.破傷風は,哺乳類を中心とした多くの動物において発生する可能性があるが,特に,馬は破傷風に対する感受性が高いと考えられている.

疫学

破傷風は,全世界において発生が報告されている疾患である.破傷風菌は,主に土壌中に存在し,耕作地や庭園の土壌に多く含まれることが知られている.また,水環境においても長期間の生存が可能であり,自然界に広く分布している.

感染経路

土壌や水中などの環境に生息している破傷風菌 (Clostridium tetani) が皮膚の創傷部位や釘傷などから宿主体内に侵入することによって感染する.しかし,個別の症例における侵入部位を特定することは困難なことが多い.

病原体

破傷風菌 (Clostridium tetani) は,クロストリジア目クロストリジウム科に属し,芽胞形成能を有する偏性嫌気性菌である.破傷風菌は,偏性嫌気性菌の中でも,特に厳しい嫌気条件を要求する.

動物における本病の特徴

症状

破傷風による症状として,神経毒素の影響による強直性痙攣が特徴的である.馬においては,顎や頚の筋肉が硬直することで,初期には軽度の震えや食欲不振,あるいは不穏な行動を示す.また,光や音などの刺激に対して過敏になる.病態の進行により,筋肉の硬直はさらに強まり,開口困難,開帳姿勢および鼻翼開帳などの症状を呈する.また,瞬膜の露出も特徴的である.過呼吸や心拍数の増加および発熱などの症状を伴うこともある.

潜伏期

馬における破傷風菌の潜伏期間は,通常1~3週間程度と考えられている.

類症鑑別

馬において神経系の異常を呈する下記の疾患との鑑別が必要である. 日本脳炎ウイルスやウエストナイルウイルスによる流行性脳炎,馬鼻肺炎,馬原虫性脊髄脳炎,脳脊髄糸状虫症

予防

本症は,ワクチン接種により高い予防効果が期待できる.破傷風菌が産生する毒素をホルマリン処理により不活化したトキソイドワクチンが市販されており,本ワクチンの接種が推奨される.

法律

家畜伝染病予防法において,届出伝染病に指定されている.対象動物は,牛,水牛,鹿および馬である.本症を診断した獣医師は,管轄の家畜保健衛生所へ届出る必要がある.

人における本病の特徴

破傷風の発生数は,世界においては,2019年時点で乳児27,000症例を含め年間73,000症例と推測されている.しかし,ワクチン接種の普及により,破傷風発生数は急減に低下しており,過去30年間で新生児の破傷風による死亡数は95%減少した.新生児の死亡原因に占める割合も,2000年においては全原因の7%であったことに対し,近年では1%未満へと減少している.国内における発生数は,年間約100症例である.

症状

破傷風菌が産生する毒素による筋肉の強直性痙攣を特徴とする神経症状を呈する.全身の筋肉に症状が現れることが多いが,ときに,破傷風菌が侵入した局所の筋肉のみに限局することもある.症状としては,顎や首の筋肉の硬直,嚥下困難,発熱や発汗を呈し,病態が進行すると,より強い痙攣と共に呼吸困難などの症状を引き起こす.

潜伏期

約3~21日 (平均1週間程度)

治療と予防

未治療の場合,死亡率は高くなるため,早期治療が重要である.治療には,抗毒素投与や抗菌薬投与に加え,創部のデブリドマンや抗痙攣剤の投与などを行う.破傷風は,適切なワクチン接種により発症予防可能であるが,加齢により抗体価が低下していくことに留意する必要がある.

法律

感染症法の五類感染症に定められている.診断した医師は7日以内に管轄の保健所へ届出る必要がある.

(2024年3月作成)

このページのTOP