日本脳炎(Japanese encephalitis)

感染症法:四類感染症家伝法:家畜伝染病(流行性脳炎)

概要

主にコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)によって媒介される日本脳炎ウイルスによる感染症である.日本脳炎ウイルスは人,馬,豚を始め,牛,水牛,いのしし,しか,めん羊,山羊,ウサギ,ネズミ等の多くのほ乳類や鳥類にも感染する.そのほとんどが不顕性感染であるが,時に人や動物に重篤な急性脳炎を起こす.

疫学

日本,中国,韓国,東南アジア,南アジアの広範囲で発生しており,近年はパプアニューギニアやオーストラリアの一部でも発生が報告され発生地域が拡大している.わが国では,蚊の発生時期である夏季を中心にウイルスが流行する.不顕性感染がほとんどであるが,感染動物は強い免疫を獲得する.豚は,日本脳炎ウイルスに感染すると,他の動物や人に比べ高度のウイルス血症が長く続き, 感染源として重要な役割を果たす.

感染経路

媒介蚊(日本では主にコガタアカイエカ)の吸血により感染する.

伝搬動物

わが国においては,豚が日本脳炎ウイルスの増幅動物であり,主として豚 →蚊 → 豚の感染環によりウイルスは存続している.感染した人や馬は感染源とはならない終末宿主である.

病原体

日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus) フラビウイルス科 フラビウイルス属でプラス1本鎖の RNA ウイルスでエンベロープを持つ.伝播様式からアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)とも分類される.遺伝子型でⅠ~Ⅴ型に区分されているが,わが国では,Ⅰ型とⅢ型のウイルスが分離されている.

動物における本病の特徴

症状

は感受性が高く発病すると,発熱,元気食欲減退,呼吸促拍,神経症状(沈鬱,痙攣,麻痺,狂騒)を示し,重症例では神経症状が悪化,昏睡状態となり死亡する.牛,山羊等の発生は極めて少ない.豚では不顕性感染が大部分で一過性の発熱や食欲減退が認められる程度.しかし,妊娠豚(特に初産で夏季を越すもの)が感染すると,死産(白子,黒子,ミイラ化した胎児が混在,死産胎児に内水頭症,脳欠損を認める例もある),流産等の異常産や分娩された子豚が神経症状を示し,生後すぐに死亡する.種雄豚では陰嚢の充血,水腫や造精機能障害を起こすことが報告されている.

潜伏期

馬:1~3週間

類症鑑別

脳脊髄糸状虫症,破傷風,馬ゲタウイルス感染症,ボルナ病,狂犬病.
パルボウイルス感染症,オーエスキー病,トキソプラズマ病,豚繁殖・呼吸障害症候群(Poricine reproductive and respiratory Syndrome:PRRS)

予防

媒介蚊の駆除.馬では不活化ワクチンを流行期前に接種する.豚では繁殖豚及び繁殖候補豚(雌雄共)に不活化ワクチンまたは生ワクチンを流行期前までに接種する.翌年以降は必要に応じ,流行期前までに追加接種する.

法律

家畜伝染病予防法でウエストナイルウイルス感染症,西部馬脳炎,ベネズエラ馬脳炎等とともに「流行性脳炎」として監視伝染病(家畜伝染病)に指定されている.対象動物は牛,水牛,馬,めん羊,山羊,豚,しか,いのしし.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所へ届出る.感染症法の4類感染症に定められているが,動物における届出義務はない.

人における本病の特徴

世界的には年間3~4万人の発生報告があるが,わが国では予防接種の普及等により 1992 年以降,発生数は毎年 10 人前後である.しかし,豚の日本脳炎ウイルス抗体保有率は高く,毎夏,豚と蚊の間でウイルスが流行していることから,人への感染リスクは依然としてある.

症状

突然の発熱(39℃以上),頭痛,全身の倦怠感,悪心,嘔吐,食欲不振,腹痛等に始まり,その後,頸部硬直,意識障害,光線過敏,痙攣,昏睡等の神経症状が出現し死亡する.死亡率は 20~40%で,幼少児,老人では高い.精神神経学的後遺症は生存者の45~70%に残り,小児では特に重度の障害を残すことが多い.ウイルスに感染しても日本脳炎を発病するのは 100~1,000 人に 1人程度であり,大多数は無症状に終わる.

潜伏期

6~16日.

治療と予防

臨床症状と疫学的状況.血清学的検査(HI試験,IgM-ELISA法)ウイルス検索(培養分離,蛍光抗体法によるウイルス検出,PCR 法によるウイルス遺伝子検出).特異的な治療法はなく,対症療法が主となる.

予防は、日本脳炎不活化ワクチンの接種と媒介蚊の駆除.

法律

感染症法の4類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

(2024年3月更新)

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