日和見真菌症(Opportunistic Fungal Infections)

感染症法:四類感染症

概要

健康な個体は通常,感染源と接触しても発病しないが,免疫力が低下した個体に感染する真菌症である.

疫学

原因菌は生活環境に普遍的に存在する菌種のCandida属菌種,Aspergillus 属菌種およびハト糞などに集積しているCryptococcus neoformansなどである.健常な個体では毎日数千から数万の日和見真菌症原因菌を吸引・接触しても発病に至らない.しかし,高齢,エイズ,白血病,臓器移植後の免疫抑制剤,外科手術後等で免疫力が低下すると感染に至り,粘膜,皮膚感染にとどまらず,尿路感染,呼吸器感染,しいては全身感染に及び,致死的となる.また,上記に掲げた菌種の他に,稀に分離される菌種として接合菌,黒色真菌,Fusarium 属菌種,Acremonium属菌種その他多種が知られている.

感染経路

粘膜,呼吸器,留置カテーテルなどから感染する.人も動物も口腔内,尿,糞便中に原因菌を保有しているため,口移し給餌はお互いに感染源となりうる.

保菌動物

健康上問題の無い個体でも約3〜5%の個体は口腔内に原因菌となりうる病原真菌を保有している.

病原体

Candida属菌種:Candida albicansC. tropicalisC. parapsilosisC.glabrataC. guilliermondiiC.kruseiC.kefyrC.dubliniensisC.lusitaniaeなど.

Cryptococcus neoformansなど.

Aspergillus属菌種: Aspergillus fimigatusA.flavusA.nigerA.terreus など.

その他:接合菌,黒色真菌,Fusarium 属菌,Acremonium属菌など.

動物における本病の特徴

症状

皮膚,粘膜,呼吸器,泌尿器,神経および原因不明の発熱をともなった全身症状を呈する.

潜伏期

不明.

診断と治療

病原体の確認(血液,喀痰,尿などからの分離培養,PCR).治療には抗真菌薬の経口および全身投与による治療.日和見真菌症原因菌には耐性菌が多いため,感受性試験データに基づき,抗真菌薬を選択することが大切である.

類症鑑別

ウイルス感染,細菌感染,免疫疾患.

検査法と材料

定全身症状では血中のβーグルカンの測定が診断に有用である.

X線検査,CT,超音波検査も多くの情報が得られる.尿沈渣,血液塗抹,膿の塗抹などから菌体を証明する.クリプトコックス症では髄液の顕微鏡的観察による莢膜の証明と培養が決め手となる.

なお,動物の場合,喀痰の採集が難しい場合,気管支洗浄を行う.培養検査(真菌培養には一般的な抗生物質を添加したサブロー培地は適さない.抗生物質添加のポテト・デキストロース寒天培地と呈色試験兼用の酵母分離用培地を推奨する)により,菌体を証明することが重要である.掻き取り標本から顕微鏡観察による分生子の形態および集落の色調により菌種を推定する.しかし,形態観察をするには時間がかかるうえ,臨床検体では典型的な形態を示さない株も多い.早期の確定診断には遺伝子同定も併用されることを推奨する.

予防

定期健康診断(口腔内,被毛,尿からの分離培養)と,外科手術後の抗真菌剤の予防的投与など.

法律

特に規制されていない.

人における本病の特徴

症状

発熱,呼吸器症状,全身症状,脳炎症状など.

診断と治療

培養,病理組織学的検査,血清学的検査,X線,CT,超音波検査など.

予防

健常人はほとんど問題ない.免疫状態が低下している家族がいる場合,室内に植物を置かない.ベランダ,庭などにバードサンクチュアリーを置かない.特にハトが多数群れている所に入った場合,帰宅後,着衣を全て交換し,シャワーを浴びる.何か症状(頭痛,呼吸器症状など)が出た場合は医療機関に相談する.

法律

特に規制されていない.

(佐野 文子)

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