ウエストナイルウイルス感染症(West Nile virus Infection)

感染症法:四類感染症家伝法:家畜伝染病(流行性脳炎)

概要

病原体であるウエストナイルウイルス (West Nile virus)は鳥類を宿主とし,自然界では鳥と蚊の間で感 染環が維持されている.媒介蚊に人や馬が吸血されると感染し,発熱や髄膜脳炎を引き起こす感染症である.

疫学

1937 年にウガンダのウエストナイル地方で発熱患者からウイルスが分離された.現在,アフリカ,ヨーロッパ,中東,中央アジア,西アジア,北米など分布域が拡大しており,わが国への侵入が危惧されている.蚊の媒介により感染することから温帯地域では,通常,夏後半から初秋に発生する.

感染経路

媒介蚊の吸血により,血行性に感染する. 人→人,馬→人,鳥→人への直接感染や人→蚊→人の感染は無い.

伝搬動物

人や動物は,野鳥が感染源となり,媒介蚊 (イエカ,ヤブカ等)に刺されることにより感染する.人及び馬は終宿主であり,一般的に他の哺乳類,鳥類又は蚊を感染させる量のウイルスを血液中に産生することは少ないと考えられている.

図

病原体

ウエストナイルウイルス West Nile virus(フラビウイルス科フラビウイルス属)は日本脳炎ウイルスと極めて近縁(日本脳炎ウイルス血清型群)であり,オーストラリアのクンジンウイルス Kunjin virus と遺伝子解析上,同一と考えられている.

動物における本病の特徴

症状

感染する動物は,鳥類(野鳥,家きん)や馬の他,コウモリ,シマリス,スカンク,リス,ウサギも感染することが知られている.馬科の動物が高感受性で,犬,猫は感染の可能性はあるが発症はまれである.馬では,運動失調(つまづき,よろめき,歩様の不調)に加え,次の症状(旋回,後肢の虚弱,起立不能,複数肢の麻痺,筋収縮,固有受容感覚不全,盲目,口唇の下垂または麻痺,歯ぎしり,急死)のうち2つ以上を示す場合は,本病に罹っている疑いがある.また,発熱が一般的に認められる.多くは不顕性感染に終わるが脳炎を発症すると致死率は高い.鳥類では,多種の鳥類が感染し,米国ではカラス等は感受性が高く致死率が高い.一般的には無症状の場合が多いが,沈鬱,食欲不振,衰弱,体重減少などの特異的でない症状が見られる場合もある。 なかには神経症状を呈するものもある.

潜伏期

馬では通常5~10日. 鳥類 約2週間

診断と治療

疫学的状況,ウイルス分離,PCR 検査にてウイルス遺伝子断片の検出,中和試験,ELISA 法,免疫組織学的検査(IHC)等の血清学的検査.治療法はなく,媒介昆虫と接触がない状況に隔離し対症療法を行う.治癒(感染耐過)後は,免疫を獲得し再感染しない.

類症鑑別

日本脳炎,馬ゲタウイルス感染症,脳脊髄糸状虫症,破傷風.

予防

蚊の駆除,ボウフラの発生場所をなくす.防虫剤,忌避剤の利用. 米国では馬用不活化ワクチンが広く用いられている.わが国でも馬用不活化ワクチンが 2006 年に承認された.国内で本病ウイルスの存在が確認された場合は,国がその使用の可否を検討する.使用に当たっては家畜防疫員の指導の下,接種馬のワクチン接種歴を確実に記録・保存する必要がある.

法律

家畜伝染病予防法により日本脳炎,西部馬脳炎,ベネズエラ馬脳炎等とともに「流行性脳炎」として監視伝染病(家畜伝染病)に指定されている.獣医師は,本病の特徴的な症状を示した馬等(患畜または疑似患畜)を発見した場合は,直ちに家畜保健衛生所に届出なければならない.

感染症法でも四類感染症に定められている.獣医師は,鳥類のウエストナイル熱の病原体診断,血清学的診断または臨床症状,疫学的状況から本病の疑いがあると診断(検案)した場合は,直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

人における本病の特徴

媒介蚊の吸血により感染する急性熱性疾患である.多くは不顕性感染で推移するが,高齢者では脳炎など重篤な症状を示す.本病流行地に行く場合は,蚊に刺されないよう注意が必要となる.人に感染した場合,ウエストナイル熱,ウエストナイル脳炎と呼ばれる.

症状

約80%は不顕性感染である. 突然の発熱(39℃以上),頭痛,発疹(胸,背,上肢),リンパ節腫脹,倦怠感,通常1週間以内に回復,感染者の約1%で髄膜炎,脳炎(ウエストナイル脳炎)などの重篤な症状(頸部硬直,意識障害,痙攣,筋力低下,麻痺)を示す.50 歳以上の高齢者は重症化しやすく,致死率は重症患者の約3~15%.

潜伏期

2~14日(通常2~6日).

治療と予防

治療は対症療法.野鳥や馬に本病が見られた地域では,周辺環境の蚊の駆除,防虫剤,忌避剤の使用.人用のワクチンは実用化されていない.

人の本病診断機関:国立感染症研究所 ウイルス第一部第二室(節足動物媒介性ウイルス室) (TEL:03-5285-1111,FAX:03-5285-1188).

法律

感染症法の四類感染症に定められている.診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられている.

(2024年3月更新)

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