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【TOJUジャーナル 2024 年 4 月号(611号)】

 特集 『東京都獣医師会に競馬場獣医師? 潜入、勝島支部!』

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【目次】

・巻頭言(1)大学病院紹介 「東北地域の獣医臨床・研究のハブになる」

・巻頭言(2)オピニオンリレー 第 4 回 「義務、それとも・・・・・・?

・特別寄稿 『令和 6 年能登半島地震 〜現地獣医療への組織対応〜』

・特集 『東京都獣医師会に競馬場獣医師? 潜入、勝島支部!』


 巻頭言(1) 大学病院紹介

 

2024.4katayama.jpg大学病院紹介 第 9 回    

 

「東北地域の
獣医臨床・研究のハブになる」

岩手大学附属動物病院
動物病院長 片山泰章

 

 

 

 

 

岩手大学農学部共同獣医学科は、東北地域での国際通用性のある獣医学教育実現のため令和 7 年度の獣医学部化へ向けて進んでいます。その中心的役割を担う岩手大学農学部附属動物病院は、東北地域の皆様の大切な動物たちの健康を守るためのハブ施設として、また獣医学教育の実践の場として、さらには臨床検討会や各種講習会の開催を通じて臨床獣医師の皆様の生涯教育の場としての機能を果たしています。

 

・診療体制

診療科は「伴侶動物診療部門」と「産業動物診療部門」に大きく分かれ、伴侶動物診療部門についてはより専門色の強い専門診療科を設け、スタッフの充実ならびに特殊検査・治療の導入を図っています。特殊外科治療として猫の腎移植、また特殊検査として猫の嚢胞腎遺伝子検査を受け付けています。産業動物診療部門では学内での診療活動に加え、近隣の八幡平市と提携し牛の繁殖育成センターへの往診も実施しています。また、成牛の胚移植(採卵、胚の回収・処理及び移植)も実施しています。

 

・産業動物臨床における人材育成

岩手大学農学部附属産業動物臨床・疾病制御教育研究センター(Farm Animal Clinical Skills and Disease Control Center; FCD)は産業動物臨床教育と実践的な参加型臨床実習を行う拠点として産業動物臨床教育の向上を支援すること、並びに家畜疾病制御にかかわる教育研究体制を整備し、産業動物分野を支える獣医師人材を育成する拠点を構築することを大きな目的としています。動物病院とFCDは互いに協力し、地域の産業動物医療レベルの向上を目指しています。

 

・被災地支援

災害等発生時には小動物専用移動診療車「ワンにゃん号」を被災地の獣医師会等へ貸し出すことにより、現地の診療に有効活用していただいております。過去には、東日本大震災、熊本地震、そして先日の能登半島地震での活動および貸し出し実績があります。「ワンにゃん号」は、マイクロバスを移動診療車に改造したもので、内部には診療室と画像診断室を備え、レントゲン撮影装置はもちろんのこと、超音波診断装置、吸入麻酔機、診察台、生体モニター、血液分析装置、顕微鏡、電子カルテなどを備えた名実ともに「動く診療室」となっています。

 

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第 1 手術室(左)、第 2 手術室(右)での手術風景。

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猫の腎移植、腹腔内に移植された腎臓。

参加型臨床実習での牛の手術風景。

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能登半島地震被災地へのワンにゃん号の貸し出し。

 

岩手大学農学部附属動物病院の紹介

Web site:http://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~hospital

岩手大学農学部附属動物病院は、その前身である家畜病院が盛岡高等農林学校創立の翌年( 1903 年)に設置されて以来、既に 120 年の歴史を刻んでいます。本学動物病院では伴侶動物と産業動物のバランスのとれた臨床教育を目指し、症例は犬・猫だけではなく牛馬も多く含まれます。近年では人材は財産との考えをもとに、動物病院予算から特任助教 4 名、さらに研修医を 2 名雇用して診療スタッフの充実を図るとともに、愛玩動物看護師も 10 名まで増員して診療補助スタッフの充実も図っています。さらには、農学部より臨床検査室の技術職員 2 名、産業動物診療を補助するスタッフとして技術職員 1 名の派遣を受けています。伴侶動物外来診療は、主に東北各県の開業獣医師からの紹介症例のみを診察する 2 次診療であり、地域の開業獣医師と連携を図って治療を進めています。

 

伴侶動物診療部門

【診療科目】

*内科系診療科

一般内科、腎泌尿器内科、血液内科、皮膚科、循環器科

*外科系診療科

一般外科、神経科、腎泌尿器外科(腎移植)、整形外科、軟部・腫瘍外科

*しつけ・問題行動診療科

 

【受託検査】

*猫多発性嚢胞腎遺伝子検査

 

産業動物診療部門

【診療科目】

*一般外来診療科、生産獣医療科、臨床繁殖診療科、専門外来診療科(胚移植)

 

 

 Web site   http://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~hospital/

 外来受付時間 月〜金曜日9:00〜11:00(しつけ・問題行動診療科 火・金曜日、9:00〜11:00) ※診療は予約制

 休診日    土、日、祝祭日

 診療科目   内科・外科・腫瘍科・神経科・整形外科・臨床繁殖科

 所在地    〒020-8550 岩手県盛岡市上田3-18-8

 お問い合わせ 019-621-6238(直通電話)

 

 

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 巻頭言(2) オピニオンリレー

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オピニオンリレー 第 4 回

 

                                

義務、それとも・・・・・・?

土屋動物病院 院長
土屋将人

 

 

獣医療に関する最新情報から身上話までさまざまな話題や意見をつないでいくオピニオンリレー。

第 4 回は、体重が落ち始めたことをきっかけに始めたランニングについて土屋将人先生がレポート。

TOJUジャーナルのオピニオンリレーも自分で 4 人目。皆さん、TOJUジャーナル読んでおられますか? 自分は申し訳ありませんが、ほとんど読んでおりません。ざっと目は通しますが、このオピニオンリレーに関しては全く知りませんでした。

 

昨年の 11 月のとある日、それは突然やってきました。普段あまり使わないLINEに、前号筆者の高橋聡美先生から、「TOJU ジャーナルに新しくできたコラムがあり、リレー方式で次の方を指名しなければならないのだけれど、土屋先生を指名していいですか?」との内容でした。

 

同じ墨田獣医師会に所属していますし、自分が断った場合、また他の誰かを探さなければならなくなり、それもまた大変だろうと思い、引き受けることに・・・・・・。文才も書くネタもないので、実はかなり困ったのは正直な話です。とは言ったものの、引き受けた以上は何か書かなければなりません。書く内容は何でもいいとのことで、あれこれ考えたのですが、やはり書きやすいのは自分の好きなことや夢ですよね。第 1 回目と第 2 回目の先生はそれぞれ趣味について書かれていました。そこで、自分も常日頃から思っている、感じていることを書きたいと思います。

 

皆さん、趣味ってお持ちですか? 無趣味が趣味という言葉もありますが、多くの方はそれぞれ何かしらの趣味を持たれていると思います。もちろん自分もありきたりではありますが、趣味は持っています。趣味とは辞典で調べると、『人間が自由時間に、好んで習慣的に繰り返しおこなう行為、事柄やその対象のこと』とありました。また、Wikiには『人間が熱中している、または詳しいカテゴリーのこと』と書いてあります。少し話は逸れますが、趣味は英語でhobbyですが、このhobby、自分が好きで習慣的に繰り返しおこなう行為、事柄としての意味で、"日本人が「趣味」としてあげる「読書」、「映画鑑賞」、「スポーツ」などはhobbyに含まれない"ともWikiには書いてあります。

 

実は自分、数年前からランニングをしています。ランニングを始めたきっかけは、元々痩せようと思っていたからでした。ところが、なかなかきっかけがなかったのですが、あるときにストレス性胃炎を起こし、ほとんど何も食べられない状況が続いて体重が少し落ちたのです。すると妻が、「折角体重が落ちたのだから、ウォーキングでも始めたら?」と言ってくれたのがきっかけでした。

 

当時の自分の体重は、恥ずかしいことに 84 kg近くありました(因みに身長は 168.5 cmぐらい)。診療が終わり、毎日のようにウォーキングをしていたのですが、それまでがウソのように体重が落ち始めたのです。初めは 5 km程度のウォーキングでしたが、徐々に距離数を長くして、結果的には毎日ほぼ 2 時間〜 2 時間半、距離にすると 1 回のウォーキングで 10 〜 15 kmぐらいは歩いていました。

 

数カ月が過ぎたあたりで妻が「走ってみたら?」と言ってくれましたが、これまでランニング、ジョギングという言葉とは無縁の生活だったので、全く走れる自信なぞなく・・・・・・。ただ、途中から刺激も欲しくなり、自分で作成したウォーキングコースの中で、「次の信号まで」、「次の橋まで」とRUN & Walkを繰り返すうちに、 1 km走れるようになり、それを続けていくと 2 km、 5 km、 10 kmと走れるようになっていました。 10 km走れるなら、次は 15 kmと目標も立てるようになり、信号待ちで引っかかるのは仕方ないにしても、極力休まない・歩かないを心掛け、いつの間にか 25 kmぐらいは普通に走れるようになっていました。

 

食事制限もやりながら一番体重が落ちたときは 58.6 kg、体脂肪は 9.5%まで落ちました。久しぶりに当院に来られた飼い主さんからは、「先生、病気されました?」とか聞かれる始末です。これまで一番走った月間距離数は約 340 km、年間総合計距離では 3,200 kmオーバーのときもありました。

 

毎日ランニングはできないので、週 3 回をベースにしているのですが、今は 1 回のランニングで 23 〜 25 kmぐらいランニングしてこないと、どうにも身体がスッキリしないのです。5 kmや 10 kmでは物足りなくなります。あるとき、とある方から「それだけランニングしているってことは走ることが趣味なんですね」と指摘されました。そこでふと思ったのです、「果たしてランニング、趣味なのだろうか?」と・・・・・・。なぜって、これまでランニングを趣味として思ったことも考えたこともなかったからです。大会に出たこともなければ、タイム短縮のためにがむしゃらになっているわけでもありません。ランニングハイという言葉がありますが、定期的にランニングに行かないと身体がムズムズしてきて、イライラするとまではいかないのですが、なんとも言えない状態になってしまいます。

 

ほぼ生活の中の普通の行動で、趣味と言うよりも、むしろどちらかと言えば生活の中の習慣という感じです。もっと言うと、自分に課せられた義務と言った方がむしろ適切かもしれません。義務とはWikiによると、「従うべきとされることを意味し、根拠としては、理性、道徳・倫理、宗教、法制度(法令・契約など)、慣習などが挙げられる」と書かれています。ただ、厳密なことを言うと、習慣と慣習では意味合いが違うので、自分の場合は習慣が適切かもしれません。でも、習慣か?と問われれば、自分の中ではどうにもしっくりこない言い方になります。

 

ランニング生活を始めて、大会には一切出ることはありませんが、それでも長距離を走ることが可能になりました。時には住んでいる墨田区から荒川の河川敷を川越の方まで行き、荒川と入間川の合流地点まで行ったり、葛西臨海公園まで往復 35 km走ったりもしています。ランニングする中で、自分の限界値を知りたくて、 2022 年の 11 月には、神奈川県藤沢市にある江の島まで約 62 kmの距離を走って行ったこともあります。 62 kmの旅はとても面白く、充実した一日でしたが、 62 km走れたら、もっと走ってみたいという衝動にかられ、今は三浦半島半周(墨田区から神奈川県の横須賀経由で逗子手前までが約 100 km)を目指して構想を練っています(本当は 2023 年に実行する予定でしたが、タイミングが合わず断念)。

 

それを親友に話したら、「もう完全に病気だね」と言われてしまいましたが、ここでようやく自分の中で答えが見つかりました。自分のラニング生活は義務ではなく、趣味でもなく、"病気"なんだと・・・・・・。このまま生涯付き合っていかなければならない病気なのか、はたまた途中で治ってしまう(飽きてしまう?)病気なのかはわかりませんが、幸いにしてこれまで大きな怪我もありません。ランニングのお陰かもわかりませんが、体調もよいので、このランニング病としばらくは付き合っていきたいと思っています。

 

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●今、使用しているシューズです。基本的にニューバランスを履いています。 1 つだけあるNIKEは、雨の日用のゴアテックスシューズ。シューズはローテーションで使っています。ソールを消しゴムのように減らしてしまうのと、故障してもいやなので、極力早めに交換しています。実は他もまだ持っていますが・・・・・・。

 

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●墨田区から江の島まで、長距離RUNの記録です。計測を止めたのが 61.87 kmですが、実はこの後も少し走っています。ランニングしていた時間は 6 時間 43 分ですが、信号待ちだの、道に迷うだの、途中休憩だので、朝 4:30 に出発して江の島に到着したのはお昼ぐらいでした。

 

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●唯一参加した大会での一コマ。この大会は芦ノ湖スカイラインを閉鎖して富士山を見ながら走れるというので、妻と参加しました。スタートから 8 km地点までずっと上りというコース! もちろん、帰りは 8 kmずっと下り・・・・・・。

 

 


 

次回は ひろ動物病院 安部浩之先生
テーマは『残りの人生でやりたいこと 〜私のバケットリスト〜』です!!

土屋将人(つちや まさと)
酪農学園大学獣医学部獣医学科卒。
墨田区で地域密着型ホームドクターとして、父の代から数えるとこの地で 60 年以上やっています。

 


 

 特別寄稿 『令和6年能登半島地震 ~現地獣医療への組織対応~』

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東京都獣医師会 事務局長/日本獣医師会 危機管理室 統轄補佐
平井潤子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめに

令和 6 年 1 月 1 日 16 時 10 分

元旦早々に発生した能登半島地震では、石川県輪島市門前町走出と同県羽咋郡志賀町香能で震度 7(暫定値)を観測。

その後発生した津波や輪島市での大規模火災が、さらに被害を大きくしてしまいました。

 

過去の災害と同様に、この震災においても、能登に住む人たちだけでなく、多くの動物たちが被害を受け、避難生活を余儀なくされており、石川県獣医師会をはじめ、石川県、環境省、日本獣医師会、ペット関連団体の他、さまざまな組織が協力し、被災した飼い主とペットの支援活動に取り組んでいます。今回の特別寄稿では、災害発生時に支援にあたる組織対応について、報告させていただきます。

 

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●珠洲市内倒壊家屋

●輪島市内火災跡

 

 

1.支援活動開始について

大規模災害発生時、救援活動を開始するにあたって、支援内容や規模を検討する際に生じる課題が情報収集です。

自治体や関係団体と協働する動物対策本部を立ち上げるのか、あるいは獣医師会単独の活動とするのか、支援体制の規模をどの程度とするかなど、支援活動の方針を検討するには、被害状況や被災者数、被災動物数等の情報が必要となりますが、さまざまな理由で情報収集が阻まれます。

 

能登半島地震においても、道路が分断され孤立した地域の情報は得にくく、また避難所にペットを同行して入れない被災者は自宅や車などでの生活を強いられていたため、ペット飼育者やペットの避難情報の全容を掌握するのは困難を極めました。

 

大規模災害の被災地調査では、以下のような問題が生じます。

1)活動拠点(宿泊施設の確保)

奥能登の被災地に近い場所は施設や上下水道が損壊し、トイレも使用できない状況で、活動拠点(宿泊先)が得られない。

被害のない地域の宿泊施設は、瞬時に予約がいっぱいになり、拠点が確保できない。

また、予約が殺到したことにより、宿泊料金が高騰してしまった。

2)活動時間の制限

宿泊できる場所から被害地域まで距離があるため、移動に時間がとられ、調査に赴いても現地での活動時間が限られてしまう。(=調査に回ることができる避難所数に限界がある)

金沢市内から輪島市まではおよそ 100 kmの距離がある。

発災当初、道路の損壊と渋滞で、現地までの移動に相当の時間を要していた。

被災地での巡回診療を 10 時に開始するためには、金沢市内を早朝4時半に出発しなければならない時期もあった。

 

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●巡回診療の様子。

●巡回診療用にセットされた薬品類。

 

 

3)流動的な状況

避難所を訪問調査したとしても、発災直後は避難所の人の出入りが落ち着かず、朝確認した情報が午後には変わってしまう、今日確認した情報が翌日には変わってしまう、という状況が生じていた。

4)ヒアリングのむずかしさ

壊れた自宅で避難生活を送る、車上で生活する、といった避難者も多く、避難者が一か所にまとまっているわけではないため、ヒアリングが困難であった。

 

このような課題により、初期の段階での全容把握に人手と時間を割いて活動開始が遅れるよりも、発災直後に困窮している被災者やペットに対し一刻も早く支援を届けるためには、見込みの緊急対応を実施することも必要だと考えられます。

また、その地域に飼育されている犬の頭数や小型犬、大型犬などの概要は、基礎自治体に登録情報を問い合わせれば分かりますし、家屋損壊の状況と比較することで、ある程度の数は想定できるので、参考値とすることは可能です。

 

2.能登半島地震での活動

能登半島地震においては、日本獣医師会が令和 5 年末に、「日本獣医師会 危機管理室」を設置したばかりであったことから、 1 月 1 日地震発生直後から担当者が現地と連絡を交わし、当日の夜には、日本獣医師会内に「日本獣医師会令和 6 年能登半島地震緊急対策本部」を立ち上げ、情報収集を開始しました。

また、 1 月 7 日には、日本獣医師会危機管理室 災害対策委員会のメンバーと事務局職員を石川県に派遣し、石川県や石川県獣医師会からのヒアリングを行うとともに、 1 月 8 日には現地対策本部として「令和 6 年能登半島地震動物対策本部(以下、動物対策本部)」を立ち上げることができました。

 

1)石川県獣医師会の動き

獣医師会での主な動きは以下の表の通りです。

ここに記載されているのは主な事項の抜粋で、この他にも毎日のように実施する打ち合わせや、内外からの問い合わせへの対応、本部設置のための作業(動物対策本部環境整備、電話設置、銀行口座開設、HP・フェイスブックの作成、広報資料、その他事務作業)等を並行して行うために、役職員は忙殺され、 1 か月以上 1 日も休みなく出勤せざるを得ない状況も生じてしまいました。

公益社団法人としては、年が明け次年度予算の検討や理事会の開催、電子申請、狂犬病集合注射事業準備、決算業務、受託事業の実施などが重なり、大変忙しくなる時期での被災です。

現地での活動に従事された会員獣医師だけでなく、日々の運営にあたる事務局の疲弊は大きな課題でした。

現地対策本部をサポートするためには、災害対応経験があり本部運営ができる人(指示されなくても動けるような人物)を一定期間派遣することが理想であり、その人材育成と派遣体制の整備は今後の課題となります。

 

表:石川県獣医師会(動物対策本部)の活動抜粋

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被災地での巡回診療出動日数は 14 日 25 か所。( 3 月末時点)

岩手大学から借り受けた「ワンにゃん号」による巡回診療には、 75 名の獣医師が参加しています。

 

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●岩手大学所有の動物診療車「ワンにゃん号」。

●「ワンにゃん号」内での猫の診察の様子。

 

巡回診療時には屋外での診察が困難な猫への対応に苦労しますが、ワンにゃん号内で診察できることで、獣医師、飼い主ともに安心して猫をキャリーバッグから出すことができていました。

 

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●金沢市内の避難所ペット飼育用トレーラーハウスの外観。ハウス内は冷暖房完備。

 

 

●避難所ペット飼育用トレーラーハウス内。ペット用のケージ類が用意されたが、ハウストレーニングの習慣がない飼い主、ケージに入れ慣れていない飼い主が多いことから、あまり利用されなかった。

 

日本獣医師会からの支援も含めた、石川県獣医師会会員病院での飼い主がいる動物の一時預かりは、 61 病院+地元動物専門学校 1 校の協力のもと、 297 頭羽の受け入れを 1 月 15 日から 3 月末までの 2 か月半の間、実施しています。

また、日本獣医師会の診療券給付事業により、700頭羽の被災ペットに対し、獣医療支援が行われました。

 

これらの活動が速やかに実施できたのは、獣医師会本部や県庁がある金沢市の被害が少なかったことや、石川県獣医師会会員病院約 70 病院のうち、能登半島北部で開業している 7 病院を除いて、被害が軽微であったことがあげられます。また、開業部会の協力が得られたことや、適切な役割分担とLINEを駆使したネットワークづくり、そして、組織の一員として動ける人材や、統率力のある人材に恵まれていたことなどによると感じています。

さらには、隣県である富山県内にペットとともに避難した被災者への対応として、富山県獣医師会と連携してペットの一時預かりや獣医療支援が行えたことは、平時の近隣獣医師会との交流が功を奏したといえるでしょう。

 

 

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●動物病院での一時預かりの様子。

 

 

発災から 3 か月が経過したとはいえ、動物対策本部の活動は道半ばです。

現在は「ワンにゃんハウスのと」の運営と被災地における猫の避妊・去勢手術事業を中心に、活動を継続しています。

能登半島地震での活動に区切りがついたときには、発災からの出来事を振り返り、動物病院や獣医師として何をどう備えていくか、あるいは獣医師会として、地域支部として災害対応の体制整備にどう取り組んでいくかを改めて検討し備えることが、多くの犠牲に報いることだと感じています。

参考:TOJUジャーナル 2021 年 10 月号( 601 号)

 https://www.tvma.or.jp/public/2023/10/toju202110601-1.html#tokushu01

 

 

能登半島地震により被害に遭われた方々、そして動物たちに心から哀悼の意を表するとともに、一日も早く能登の穏やかな生活に戻れますよう、祈念しています。

 

 

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 特集 『東京都獣医師会に競走馬獣医師? 潜入、勝島支部!』
大井競馬場で競走馬専門の獣医師に密着レポート!

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【はじめに】

東京都獣医師会には現在、 28 の地域支部と 14 の職域支部がありますが、地域支部の一つに「勝島支部」(勝島:東京都品川区にある人工島であり、同区の地名)という"ちょっと変わった"支部があるのをご存知でしょうか? 実は勝島支部は、大井競馬場(東京都品川区勝島)内で競走馬の診療を専門的に行う獣医師によって構成されています。今回、現勝島支部長で大井競馬場内にある「いとう診療所」院長の伊藤 傑(すぐる)先生の全面的なご協力のもと、普段ではなかなか見ることができない競走馬の診療風景を取材しました。

 

東京都獣医師会 広報副委員長

山本剛和

 

大きく異なる中央競馬と地方競馬の診療体制

競馬に興味のない方にはあまりなじみがないかもしれませんが、国内の競馬には「中央競馬」と「地方競馬」という2つの形態が存在します。中央競馬は日本中央競馬会(JRA)が主催する競馬で、これを開催するための競馬場やトレーニングセンター(トレセン)、育成場などはJRAが保有しており、競馬場内での診療はJRA職員や公認の開業獣医師が行います。一方、地方競馬(NRA)は都道府県が主催する公営競馬であることと、競走馬の一般診療は開業獣医師のみが行うという点で異なっています。

 

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●都市部に位置する大井競馬場のTCK(東京シティ競馬)は、東京都が運営する地方競馬。
中央競馬とは交流レースを開催するなど肩を並べた活動も行っている。写真提供:TCK(東京シティ競馬)。

 

 

 

大井競馬場の競走馬獣医師は日々厩舎を回診

"開業"と言っても、一般的な動物病院のように建物と看板を掲げて、そこに馬を連れて診察を受けにやって来るのを待つ、というスタイルではありません。競走馬の診療は基本的に往診が中心となるため、各獣医師は必要な機材一式を積み込んだ往診車を利用して、競馬場内の担当の各厩舎を周って日々の診療を行なっています。

 

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●往診車のラゲッジスペースが調薬作業台となります。奥に見えるのは大井、船橋、浦和、川崎競馬場(南関東 4 競馬場)で契約する馬運車で、4 競馬場間の輸送はもちろん、北は北海道から南は佐賀県にある競馬場まで遠征競馬用の輸送を行います。レースウイーク中は同じデザインの車両が複数並ぶ光景が見られます。

 

 

 

大井競馬場には現在 5 軒、千葉県印西市にある大井競馬小林分場には 1 軒の東京都獣医師会に加盟している競走馬診療所が開設されています。そのうち勤務医を雇用しているのは 3 軒で、残り 3 軒の診療所は獣医師 1 人で診療にあたられているそうです。今回取材にご協力頂いた「いとう診療所」には勤務医が 2 人所属しており、取材当日には日本獣医生命科学大学の学生が実習に訪れていました。

 

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●いとう診療所所属の佐竹(さたけ)先生(中央)も、伊藤先生とは別行動で競走馬の診療にあたっていました。

●同じく、いとう診療所に所属する三山(みやま)先生。写真は、レース後に目の洗浄をしているところです。

 

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●聴診器を当てるのは、実習中の日本獣医生命科学大学の学生。
JRAなどでも実習を経験しているとのことでした。

 

 

 

【競走馬獣医師の仕事】

スポーツ・ドクターの役割を担う競走馬獣医師

競走馬の診療業務は基本的に往診です。競馬場内に「馬治療所」という、枠場が設置されたスペースもあります。また、他にも手術設備が完備されています。

 

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●(いとう診療所も使用する共用スペース横にある)馬治療所には枠場が備わる。また、奥には診療器具などを収納するスペースがあり、往診車で出かける前に必要な器具をひと通りチェックをする。

●大動物を保定するための「枠場」は内視鏡検査や直腸検査、外科処置などに使用します。

 

 

競走馬獣医師の基本的な役割は、人のスポーツ・ドクターのように熱いレースに向けて競走馬の健康管理を行うことです。レースの前後や、出走予定馬の追い切り調教(レース直前週に行われる、実際のレースを想定した速いタイムでの調教)後などには必ず厩舎を訪れ、調教師や厩務員の方たちと密にコミュニケーションを取りながら、馬の身体チェックや疲労回復のための処置を行います。

 

「アスリートとしての競走馬を、レースに向けてベストな状態に調整し、事故や怪我なく無事に戻ってこられるようにすることが競走馬獣医師の大切な役割と願いであり、獣医師が競馬に関わることの意義です」と伊藤先生は言っていました。もちろんその上で、自身が関わった馬がレースで勝ってくれることが大きな喜びである、とのことです。

 

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●調教師の方とも常にコミュニケーションを取る伊藤先生。奥は大井競馬場所属の米田英世(よねだ ひでよ)調教師。

●厩務員にも馬の体調などを詳しく聞き取り、状態に合わせたメニューを考えます。この日に診療した馬は 3 日後に出走予定でした。

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●補液の内容や薬剤は馬それぞれで、調合は全て往診車の後部ラゲッジスペースで行います。

●まず厩舎で聴診・触診をし、馬によっては歩様をみて、>厩務員(あるいは調教師)の方と話して治療メニューを決めます。

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●追い切り後の疲労が激しい場合などには物理療法(レーザー治療)を行い、疲労回復を図ると同時に痛みや筋肉の緊張を和らげるそうです。

 

●また、治癒の促進や運動器疾患、疼痛緩和には、ショックウェーブ療法を用います。伊藤先生、佐竹先生ともに治療にあたっていました。機器はアメリカ製で、馬のほかに、小動物向けのメニュー(出力などを調整)もあります。

 

関わった馬の活躍する雄姿が大きな達成感

競走馬獣医師のもう一つの重要な仕事として「競り(せり)」への同行があります。国内での競走馬の競りは、その多くが北海道で開催されます。競走馬を購入したい馬主、または馬主から依頼を受けた調教師が、当歳馬や 1 歳馬(※1)の買い付けのため競りに参加する際に同行します。そこで、競り場に出ている成長中の馬たちが今後レースに出走すると、どのような状態になっていくかをX線などから予想し、馬主となる方に助言しています。

 

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●出走前のリコージーンは、伊藤先生が普段から関わる競走馬の中の1 頭。レース当日に小林分場から大井競馬場に入りました。

 

●伊藤先生が担当した中で思い出が多いのは、モジアナフ
レイバーです。28 戦 10 勝を誇る名馬でした。写真提供:TCK(東京シティ競馬)。

 

 

競りに上市される馬には必ず 1 頭ごとに、レポジトリーと呼ばれる四肢関節のX線写真(通常は 36 枚)と、内視鏡で撮影した上気道の画像・動画データが添付されています。伊藤先生は、競りの会場でこのレポジトリーを詳細にチェックします。状態のよい馬を選ぶことは、事故やトラブルを未然に防ぎ、質の高いレースの運営にも繋がるとても重要で経験が必要な仕事です。こうして自身が太鼓判を押した馬が、数年後(早ければ二歳の新馬戦)に競馬場で活躍する姿を実際に目にした時には、悦びもひとしおであろうことは想像に難くありません。

 

 

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●モジアナフレイバーは 2022 年 5 月 26 日に惜しまれながら引退しました。伊藤先生も感極まったそうです。写真提供:TCK(東京シティ競馬)。

 

 

 

※ 1 当歳馬・ 1 歳馬:以前は馬の年齢は"数え年"であったが、 2001 年度以降は国際基準に合わせて、生まれた年が当歳( 0 歳)、 1 月 1 日を迎えると 1 歳と数えるようになりました。

 

 


【伊藤 傑 先生にインタビュー】

補液から口腔外科まで競走馬一次診療の現場

取材日は第 6 回雲取賞ウイーク初日で、ひっきりなしの往診に対応する伊藤先生。

そんな最前線で活躍する競走馬獣医師としてのお考えを伺いました。

 

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●伊藤 傑(いとう すぐる)

日本大学生物資源科学部獣医学科を卒業。いとう診療所の院長はもちろん、東京都獣医師会 勝島支部長や全国公営競馬獣医師協会の監事も務めています。大のクルマ好きでもあり、往診車のハイエースは自分好みにドレスアップされていました。ドライバーズシートをRECARO社製に、サスペンションをÖHLINS社製に、そしてスタビライザーはクスコ製のパーツへと変更したおかげで、乗り心地が非常に改善されているそうです。

 

 

獣医師になったきっかけ

>山本 獣医師になったきっかけを教えてください。

 

>伊藤 父が競走馬獣医師だったのです。ただ、私自身は全く畑違いの仕事を 7 〜 8 年くらいしていたのですが、父の仕事を見ていて「なんか、いい仕事だなぁ」と思って一念発起して日大の獣医学科に入学しました。ですので上野弘道会長(東京都獣医師会)とは同級生です。歳は私の方が 8 つくらい上ですが(笑)

 

>山本 では入学の時点ですでに競走馬獣医師になるというのは...

 

>伊藤 はい、もう馬一択でした。最初から決めていました。ですから今でも馬しか診ていません。獣医師になりたての頃は今よりも時間があったので、勉強のためということもあり大学の馬術部や乗馬クラブにも往診に行ったりしていました。

 

>山本 今は行っていないのですか?

 

>伊藤 今は競馬場の方が忙しくてなかなか行けていないですね。依頼があれば喜んで行きたいという気持ちはありますが、時間が取れないというのが大きいです。競走馬以外では、競馬場内にもイベント用などで飼われているポニーやミニチュアホースなどもいるんですが、時々呼ばれて往診に行きます。彼らはサラブレッドとは症状の表現というか、痛みの訴え方などがやはりちょっと違いますね。

 

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●自らもポニーの診療経験や競馬場での実習経験もある今回の聞き手、TOJUジャーナル広報委員 副委員長 山本剛和先生。

 

・普段の仕事内容など

>山本 普段の仕事内容などを聞かせてください。 

 

>伊藤 大井だと大体月に 10 日間競馬をやっているのですが、競馬(大井競馬場は全てナイター開催)がある時などは走り終えた馬が帰ってくるまで仕事があります。それ以外の競馬開催のない日などはほぼ 9 時〜 17 時の勤務です。厩務員さんたちは朝が早く昼寝の時間を取ることが多いので、午前中 2 時間、午後は 4 時間くらい、往診で各厩舎をまわって馬の調子をみて、ほかに何か呼ばれれば往診に行くというのが大体の流れです。あとは薬の補充や器具の手入れなどの時間に充てたりしています。 

 

>山本 診察は基本的に往診で行うのですよね?

 

>伊藤 はい、ほぼ往診です。馬は診療所には来てくれませんからね(笑)。車に必要な薬や機械を積んで移動しながら診察します。ですから基本的に一次診療、内容的には運動器疾患や感染症、外傷や疝痛などが多いですね。 

 

>山本 一次診療で対応できないような場合にはどうしているんですか? 

 

>伊藤 ここから一番近いところだと、茨城県稲敷郡にある美浦(みほ)のトレセンに送ったり、緊急性が低い場合には北海道日高市三石にある農業共済日高支所家畜高度医療センターや、苫小牧市にある社台クリニックなどに骨片摘出や喉鳴り(左反回神経麻痺)などの手術をお願いしたりすることもあります。ここ(大井)にも一応手術できる設備はありますし、骨片摘出など重症ではない症例にも対応しています。ただし、いとう診療所としては対応できていません。これから若い獣医師たちがどんどん育って色んな条件がクリアされていけば、自分たちの手で手術ができる環境も作っていきたいという希望はあります! 

 

 

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●X線画像を前に解説することもあります。ポータブルでの内視鏡やX線、超音波検査と、血液検査は常に行うそうです。写真は大井競馬場所属のシャイントゥモローという馬のもので、斜め外、内、外、真横の 4 方向から撮影したもののうちの 1 枚です。

 

 

 

>山本 競走馬の獣医師を目指す若い先生が増えるといいですね。今日も学生さんが実習に来られているみたいですが、実習生などは常に受け入れられているのですか?

 

>伊藤 はい、今は日獣大の学生さんが 6 人くらい定期的に来てくれています。学生同士のLINEで「大井競馬場の伊藤先生のところで実習できますよ」って情報を共有してくれているようで、興味のある学生さんにはいつでも実習に来て実際の現場を見てもらっています。大動物の仕事というのはどうしても仕事が長時間で過酷な環境と思われがちですが、色々と工夫してちゃんと休みも取れますよ、というのを直接伝えられれば(笑)。

 

 

公正確保の話

>山本 競走馬の診療という点で小動物の臨床医とはまた違う点がありそうですね。

 

>伊藤 そうですね。例えば、昔は鎮痛剤などを投与して多少無理をさせて走らせる、なんていう時代も確かにありました。今はその辺の禁止薬や規制薬の基準がとても厳しくなっていて、そのお陰で故障馬も以前よりかなり減りました。

 

>山本 そういった規制は全国共通なのですか?

 

>伊藤 そうですね、基本的にはヨーロッパなど海外からの発信です。国際的な基準を日本でも導入して、JRAも地方競馬も同じ条件でお互い協力して守るようにしています。例えば厩舎内で厩務員さんが飲んでいる缶コーヒーやお茶などの成分(カフェインなど)が馬の水や餌に誤って入ってしまって、もしレースに出る馬が飲んでしまったりするとアウトです。レースでは 1 着、 2 着と一番人気の馬は必ずドーピング検査を受けることになっていて、今はほんの僅かな薬物でも検出できるようになっています。だから獣医師だけじゃなくて、厩務員さんとか厩舎内のスタッフの方達にもそのあたりの知識をしっかり持ってもらうことが重要です。

 

 

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●獣医師と調教師、そして厩務員は常に密接に関わり合っています。米田調教師(右)は、「とにかく信頼度がすごく高いんです。大井で一番頼りにしている先生ですよね。困ったことがあれば、もうすぐに伊藤先生に相談しています」と語ってくれました。

 

 

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●大井競馬場内にある東京都馬主会は、大井競馬所属の馬主の発展に寄与する団体です。
獣医課長の東野利信先生は、所属の馬主が所有する馬が怪我をした際などに、見舞金交付の審査を担当する先生です。

 

 

 

 

 

今後の展望

>山本 今後の展望などあればお願いします。

 

>伊藤 さきほども話に出ましたけど、やはり二次診療の問題というのがあります。関東で馬の手術ができる施設というのは、私が知る範囲では美浦のJRAの施設と、栃木県那須塩原市にある全国公営競馬獣医師協会の研究所、麻布大学と浦和競馬場、あとはここ(大井競馬場)の施設、たぶんこの 5 カ所くらいかな? ただ、先ほどもお話した通り、大井の施設は稼働はしていますが、いとう診療所としては二次診療には関われていない状態です。これをぜひ何とかしたい。やる気のある先生方や、馬の診療に興味のある若い先生たち、学生さんなどとチームを組んで、骨片摘出くらいの手術はできるようにしたいな、と思いますね。この記事を読んで興味をもって下さった方、ぜひご連絡ください。山本先生も、その際はぜひご協力をお願いします(笑)

 

>山本 何かお力になれることがあれば(笑)。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

 

 

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●レースが始まる前は、操鞍所(出走前検査所)へ向かう馬が多くなり、開始後はスタート地点へ向かう馬と出走後の馬が交錯し始めます。写真はレースを走り終えた競走馬。

●大井競馬場のゲート式発馬機はナンバー登録されており、公道も走行できます。写真提供:TCK(東京シティ競馬)。

 

 

 

これまでの診療を通じて実感した、若い世代が関わる 2 次診療への期待。

 

 

【取材を終えて】

伊藤先生が考える、馬の臨床の課題と将来

取材のあと、当日開催中であったナイター競馬を見ることができました。視界を遮るものが殆どない夜空を背景に、右回りの真っ白いオーストラリアの砂を使用したダートを駆け抜けるサラブレッドの美しい姿に息を飲みました。

 

 

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●国内の競馬場は右回りと左回りのレースがあります。大井競馬場は右、左回りのレースがある世界で唯一の競馬場なのです。これほど広い空を見上げることができるのは都心部では珍しい経験です。

●取材日は大井競馬場の 3 歳馬による第 6 回雲取賞の初日ということで、パドックでは出走前の馬と騎手をチェックする若いファンが多くみられました。

 

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●競馬場のコースには芝とダート(砂)があります。大井競馬場はダートのみで、白い砂はオーストラリアから定期的に輸入しているものを使用しています。ナイターで映えるのも特徴です。写真は 2024 年 2 月 28 日に開催された第 15 回フジノウェーブ記念でのゴール手前駆け引きです。写真提供: TCK(東京シティ競馬)。

 

 

 

 

競馬において主役はもちろん馬と騎手ですが、獣医師は"縁の下の力持ち"として非常に重要な役割を果たしていると言うことを少しでも伝えることが、今回の取材の目的の一つでした。「日本の獣医学は軍馬から始まった」と言われますが、馬の臨床に興味を持つ獣医師がもっと増えてくれたら嬉しく思います。

 

 

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